契約2週間前からの起死回生
ある日「少し話が聞きたい」と連絡をして来られた施主様。
三世代で暮らす築115年の古民家があちこち傷んできたため、今後のことを考えリフォームしようと計画していた施主様。ご夫婦で1年かけて他社と打ち合わせをしてこられ、二週間後には契約を控えているとのこと。ところがそのプランを海外に留学していた娘さんに猛反対をされ、工務店を探しているとのこと。
「とりあえずお話だけでもお聞きします」とお宅に伺うと、施主様ご夫妻が迎えて下さいました。
どんな内容で契約されるのかと尋ねると、渡されたのは簡単なプランと金額の書かれたA3サイズの2枚の書類。契約金額は2,000万円とのことですが、拝見したところその金額に含まれない別途工事も多く、プロの私が見ても、どんな家になるのか、いくらかかるのかよくわからないという、お粗末なプランニングシートでした。
母屋と納屋をつなぐトンネル!?
おばあ様が生まれ育った母屋の二階と、新しく建てられた納屋を行き来するのに、毎度一階へ降りて外を通っていくのが煩わしいから、繋げてほしいというのが施主様の要望。他社のプランでは「出来ません」とあっさり断られ諦めたそう。
それを聞き、「やればいいと思います」と答えました。
技術的にできないということは私たちにはありえません。納屋の二階を繋げたいというなら、どうにかして繋げられるプランを提示するのが私たちの仕事です。それを聞いたご夫婦はとても驚き、喜ばれました。
持参した弊社の古民家の施工事例にも大変興味を持たれ、早速「九十路の家」を息子さん、娘さんも含めたご家族で見学されました。
その一か月後、娘さんから「もう少し待ってください」とのお電話がありました。さらにその約一か月後、施主様から「他社はお断りしたので、よろしくお願いいします。」とご連絡をいただきました。
薪ストーブでひと騒動!?
さてここから本格的にプランを考えていくわけですが、最も大事なのは、どんな暮らしをしたいかをお聞きすること。打ち合わせはいつも夜、話しのあとは晩御飯から食後のデザートやお茶まで、一緒に頂きながら4~5時間はまたお話が続きます。
何度かお邪魔して、施主様ご家族の要望や好みも分かって、ラフプランを提出した時のこと。息子さんが「親父、薪ストーブは?」と。「儂はあってもいいと思うんじゃ」と男性陣はストーブ肯定派。一方女性陣は「絶対に世話しないんだからいらない!」と大波乱。結局施主様が「儂が要るといったら入れるんじゃ!」と押し切られました。さあ!プラン変更です。薪ストーブを設置するにはそれなりの設計が必要なので、今度はストーブを中心に新たなプランを考えました。
屋根裏の予期せぬハプニング
工事の途中で屋根を支える大切な丸太の上半分が、シロアリに食べられてスカスカになっていることを、屋根をはがしたときにはじめて気が付きました。これはもう一大事です。
差し替えられる同じような太い立派な丸太は見つけられませんでしたが、それよりも短い二本の丸太なら見つかりました。が、新しい丸太を入れるためには組み方を変えなければなりません。
そこで、どうせ変えるならばと提案したのが「昇り梁」という組み方でした。これによって天井部分がすっきりとし、白壁と新しい丸太・黒い梁とのコントラストが映える広々とした空間になりました。
当然予算は厳しくなりましたが、薪ストーブまわりの古レンガを直接買い付けに行ったり、ご家族と一緒にIKEAへ家具を買いに行ったりと節約も楽しいイベントになりました。
水屋を減築して「うだつを上げる」
この家には、母屋と納屋の他に水回りのために増築された水屋がありました。田舎の古民家ではよく見受けられる造りです。今回のリノベーションでは、あえてここを思い切って減築し、駐車スペースを確保しました。
リフォームは足し算と思われがちですが、リノベーションはむしろ引き算のほうが多いかもしれません。必要なものを見極めてそこへお金をかける、断捨離することで大好きなものだけに囲まれて暮らす、というのに近いかもしれませんね。
減築した建物は屋根もシンプルにコンパクトに抑えました。ここで少し遊び心のディティールを入れています。母屋との境にある少し立ち上がった壁、「うだつ」と言って古くは木造建築が密集した町で、火事になった時隣から火が来ないようにする、防火壁の役割を担うもの。立派な家にはこの「うだつ」が上がっていたものです。
「うだつが上がらない」という言葉は、「甲斐性が無い」という意味なのは、こんな歴史があるからなんです。せっかく115年も住み続けられた古民家を、今後100年も住み続けられるようにリノベーションした施主様。うだつを上げる資格は充分ですよね。
玄関は古民家の顔。だから風格が大事
古民家の特徴として、建物が大きいほど室内が暗くなりがちというのがあります。そこで天窓の出番です。屋根の高さや建物の奥行きを感じさせながら、外のあかりを届けてくれます。
さらに、古民家は玄関に風格が必要と考えています。「七福神の家」では向かって左はお客様用、右は家族用としています。お客様用には焼き物のコレクションが飾れる棚を、その裏側には実は家族の靴箱があります。ハレとケを使い分けるという日本の伝統を表した玄関になりました。
思い出と歴史を未来へ残す
古民家をリノベーションする時には、出来るだけ歴史を残していきたいと思っています。古い・もう価値がない、と処分してしまうのはたやすいですが、そういったものにこそ家族の歴史が刻まれているものです。母屋の屋根瓦はこの家が建てられた当時のものでした。補修して使おうにも今となっては難しい形の瓦です。そこで、玄関の壁に小さな屋根をそのまま再現して古い瓦を少しだけ残すことにしました。
また、柱にはお爺さんが書いた「一日一合で100歳まで」との落書きをあえて残しました。お酒を控えて長生きしようと言いながら、一日一升飲んでいたそうです。
古い家に飾ってあった七福神の木彫りのお面セットは、額から外し家の各部屋七か所に飾りなおしました。これからも家と家族を守ってくれそうですね。
また久しぶりに「七福神の家」を訪れたくなりました。
実は大手の〇〇そっくりさんで契約寸前だったんですが、娘に大反対され困った末に電話したのが小橋工務店さんでした。大手に「無理」と言われた希望も全部叶えてもらった上、薪ストーブや古い家の思い出も玄関に残してもらえて、大満足です。