いかす家

お買い得物件のはずが・・・

岡山市でも里山といえるのどかな地域に建てられた、昭和57年ごろの和風住宅。施工のプロの私たちは、6畳間の端から端までで床の高さが1.5cm違っても「傾いてるな」とわかります。この家はそんな傾きもなく、屋根や外装の状態も良く、補修も少なくてすむのでは、と決めた物件でした。
しかし…壁を解体して初めて分かった工事不良の数々。筋交い(柱の間に斜めに入れる補強)が柱に固定していなかったり、大切な構造材が切断されていたり、普通では考えられない状態に、唖然としてしまいました。

壁の中には驚きの光景が

木造住宅だから、何とでもなる

問題はあったものの、そこは木造住宅の良さで、「何とでもなる」ものです。強度が足りない部分は補強し、不具合のある部材は新しいものと取り換えるなど、知識と技術でより良い家にアップグレードすることができるのです。
予想外に補修の費用がかさんだことで、足りない費用は工夫で解決するしかありません。材料の種類を増やさず、それを使って大工が現場で作って行く。収納棚などの家具も、家具工事ではなく大工工事にすることで希望の場所に現場で製作・取り付けができます。規格サイズを基準に考えるので材料の無駄もありません。ご主人が諦めかけていた数千枚の音楽CDや雑誌の収納も、倉庫ではなくリビングに作ることが出来ました。
洋室にリノベーションしても美しい和室の天井を生かすなど、使えるものは使っていくことで予算を調整します。

綺麗に並んだ書籍やCD。棚は廊下側からも使える両面仕様

冬が楽しみな薪ストーブのある家

施主様の要望は、「薪ストーブのある家で足守に住みたい」というものでした。夏でもクーラーをかけずに、開け放して過ごしたいという生活スタイルなので、断熱にお金をあまりかけることもありませんでした。断熱や気密性はエアコンなどで温度調整をする家には不可欠なもの。しかし、それもすべての人にとっての正解ではないことを、この施主さんから教えていただきました。唯一、暑さ対策に西側の壁だけに断熱を追加しました。薪ストーブや音楽の趣味以外はこだわりがなかったので、お風呂屋洗面台などの住宅設備機器は、ショールーム入れ替えの展示品を上手に使うことで費用を抑えました。
里山の良さで薪の調達に便利な地域ですが、ご主人は薪ストーブ好きが高じて電力会社の木を切る仕事に転職されたというのには驚きでした。

1段下がったスペースに薪ストーブがあるのでベンチにも

日本家屋によくある廊下も活用する

この家は、部屋の周りに廊下があるという、日本家屋の特徴を持つ造りでした。もともと押し入れであった部屋と廊下の間を両面から使える収納にすることで、部屋に明るさと奥行きをもたせることができます。
幅50cmの部材をロット単位で仕入れていたので、その部材に合わせた奥行きに。リビングからキッチンへと一直線に伸びる板も、その奥行きから時にはテーブルに、キッチンでは収納にと様々な使い方ができます。

リビング裏の本棚。殺風景だった廊下が読書スペースにもなる

あるものを生かすことで豊かに

リノベーションの面白さは、「あるものを生かして新しい価値を作り出す」ことです。もとあった和室はほどんどそのまま生かしたり、外装・外構に手を加えない分1Fを大規模に改装してどこにいてもストーブの温かさを感じられるひとつなぎの空間へリノベーションすることができます。
冬は伐った木で暖をとり、夏は両側の窓を開け放し自然の風を愉しむ。大好きな音楽を聴きながら過ごす夜は、仕事でどんなに疲れた日でも心から癒される時間です。
日本人が古くから里山で生活してきたスタイルが、現代の家でも心の豊かさとして、この家では受け継がれています。

リビングから続くカウンター。キッチンからも薪ストーブが見える

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フロアプラン

設計士/寺越 則人